主治医は主に診察室での本人を見て状況を判断せざるを得ないので、障害状態をどうしても実際の状態より軽く見る傾向があります。
特に本人のみが外来受診しているという場合は、主治医に実際の日常生活の状況が伝わっていません。その状況で日常生活の能力を測る診断書を書くので、現実と違ってしまうのも当然といえば当然のことです。
24時間患者と生活を共にする家族や通所職員からの話でようやく分かることも多くあります。しかし家族は毎日の本人に対する声かけや援助が日常的になっていて、本人の日常生活能力については、意識していないこともあります。この際どんな時に声かけや注意、世話をしているか客観的に思い起こしてみましょう。
障害年金の等級は、病状もさることながら、日常生活でどの程度問題、支障があるかで判断されます。
そこで、精神の診断書裏面の日常生活能力の判定を、一つ一つ項目別に見ていきます。
この項目は診断書に(判断にあたっては、単身で生活するとしたら可能かどうかで判断してください。)と赤字で記載されているように、日常生活能力は単身で生活し、誰からの援助も得られない状態を想定して記入することになっています。
(1)適切な食事
栄養的にバランスがとれた食事を、自分で用意して食べられるかどうかです。これを単身で生活し、誰からの援助も得られない状態を想定して記入するのです。したがって、母親が用意した食事を食べているだけでは「できない」に該当します。一人で生活している場合、コンビニで買ってくるという人も、栄養バランスを考えて、偏食とならないよう買えているかが問題なのです。いつも同じものしか買わないでは、「できない」に近いということになります。
(2)身辺の清潔保持
言われなくても自らすすんで入浴をしますか?シャンプーを使って洗髪をしますか?洗身をせずに湯につかるだけでは「できない」になります。注意されなくても季節や気候にあった清潔な服装ができますか。シーツや布団は清潔ですか?自室の掃除は自分からしますか?など考えてください。
精神疾患の患者さんは、この項目は結構不得手分野です。
(3)金銭管理と買い物
買いすぎてもいけませんが、買わな過ぎるのもいけません。ここで問われているのは、計画的に適切なものを適切な量を自分で判断して買うことができるかです。どれを買うべきか迷って買えなくなる人、判断に長い時間がかかる人も少なくありません。こうした場合は「できない」もしくは「助言や指導があればできる」に該当します。
(4)通院と服薬
通院に毎回かあるいは時々同行が必要な人、声かけが必要な人、通院や服薬を忘れる人、指示通りにしない人など問題のある人は多いかと思います。一人で通院しても医師にきちんと病状や生活状況を話せないのも困ります。家族が時々行って伝わっているかどうか確認しましょう。
(5)他人との意思伝達及び対人関係
これは不得手な人が非常に多いです。円滑な会話ができない、人の多いところがだめ、被害的になる、外にほとんど出ない、トラブルを引き起こしがちなどの問題がある場合などは「できない」ことになります。
対人関係の障害は助言や指導により、改善することはなかなか難しいのです。
(6)身辺の安全保持及び危機対応
これも精神疾患の患者さんには難しい項目です。その人の病状によっても違ってきます。「できる」と断言することはできないのではないでしょうか?他人に援助を求めることも苦手でしょう。
(7)社会性
障害年金、手帳、自立支援医療など、数年ごとに更新が必要です。これがなかなか煩雑で、家族や周囲の人が言わなくてもできるかどうか心配なところです。また何かの会合や懇親の場で、周りの人に配慮した行動ができるかということも社会性の一つです。場に合わせた行動ができない、周囲にかまわず料理を食べるといった違和感のある行動も社会性に問題があるということになるでしょう。